がんとハイポキシア研究会

代表ご挨拶

1955年にGray博士らによって、腫瘍内低酸素領域の存在と放射線抵抗性の関連が報告されて以来、がん治療におけるハイポキシア(低酸素)の重要性は、難治性や再発の要因として認識されてきました。1970年代には、分子生物学の進歩とともに分子レベルでの解析が進み、Semenza博士らにより低酸素誘導因子HIF-1が発見され、腫瘍内低酸素環境における研究は新たな段階に入りました。 すなわち、ハイポキシア環境が、治療抵抗性・再発のみでなく、多くの遺伝子発現を介して、アポトーシスの回避、薬剤耐性の獲得、持続的血管新生といったがんの転移・浸潤能の獲得、未分化性の維持、遺伝子不安定性の維持といったがんの悪性化にも深く関わっている事が明らかになり、分子レベルでのメカニズムが解明されてきました。更に最近では、「がん幹細胞」が話題となり、改めて「ハイポキシア環境」の重要さが、がんの起源と組織幹細胞の関連のなかでハイライトされています。

そのような背景のなかで、「がんとハイポキシア研究会」は、2003年に平岡真寛先生(京都大学医学研究科放射線腫瘍学・画像応用治療学 教授)を代表として発足し、江角浩安先生(前がんセンター東病院長)や淀井淳司先生(京都大学名誉教授)のご指導の下、井上正宏先生(大阪成人病センター)と私を運営委員として、第1回研究会を京都で開催致しました。広田喜一先生(京都大学)や谷本圭司先生(広島大学)に研究会運営に加わって頂き、以来、研究会は本分野の熱心な研究者によって支えられてきました。ハイポキシア環境のがんにおける重要性が認識されるにつれて、研究会での発表演題も登録会員数も発足当時と比べ倍増いたしました。一重に研究会関係者各位および会員の皆様のお陰と、改めてお礼申し上げます。

本研究会の発足当初の目的は、ある程度達成され、「がんとハイポキシア研究」も新たな段階に入ったという認識の下、当該研究分野の更なる発展に寄与するため、この度研究会の体制も一新することとなりました。これまで研究会の発展にご尽力頂きました平岡先生の意向を受けまして、不肖ながら私が代表を仰せつかる事になりました。このような大役を仰せつかるには、まことに微力でございますが、引き続き平岡先生にはご指導を頂き、名誉会員、世話人各位ならびに会員の皆様のご助言、ご協力を仰ぎながら、研究会の更なる充実と発展に努めてゆく決意でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

代表就任にあたり、改めて発足当時の意識を確認し、研究会の目的を明確にすることで、会員ひとりひとりに研究会の意味を考えて頂く機会にして頂ければと願いつつ、本研究会の運営方針を以下に述べます。

  1. がんとハイポキシア研究会は、「ハイポキシア」をキーワードに、幅広い研究者を結集して、基礎から臨床までシームレスな研究を推進しようと設立されたものです。
  2. 人類の健康回復や増進に貢献する「ハイポキシア環境」研究を推進し、世界的に活躍できる研究者の育成を支援するための情報交換や意見交換の場を提供する事を目的とします。
  3. 会員の積極的な研究会運営への参加により、当該研究分野のニーズを反映した研究会運営を行います。

会員の皆様には、研究会を身近に感じて頂き、情報交換や共同研究を活発に行って頂くことで、研究会が本邦の当該研究レベルの向上に少しでも貢献できますように、努力を重ねたいと考えております。皆様方の暖かいご理解ご協力を心からお願い申し上げ、就任のご挨拶と致します。

2011年9月吉日

近藤科江
東京工業大学大学院生命理工学研究科・教授
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  (写真撮影:新井春衣)